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将棋、その他諸々の話をしていきます

戦型選択の前提条件

第1回として、戦型選択にまつわる話をしていきたいと思います。

将棋の戦型は大きく2つに分けることが出来ます。

居飛車

振り飛車

ですね。有名な話だと思います。

皆さんはどちらを指しますか?アマチュアだとそれぞれだと思いますし、それで良いのです(ちなみに中の人は振り飛車党です)。

上達により良いのはどちらか?という在り来りな話をするつもりはありません。

 

私が今から話すのはこの2つの戦型の特性の違いです。決してどちらが良い、悪いという話ではなく、一般論に対して私の意見を述べる、と言うものです。

先に理っておくと、初心者向けでは無いかもしれません。

それでは始めます。

 

まず一般的に言われることとして、

居飛車は覚えることが多い」

振り飛車は覚えることが居飛車と比べて少ない」

居飛車はソフトの評価値が良い・落ちない」

振り飛車はソフトの評価値が落ちる」

将棋を指してると誰もが聞いたことある事だと思います。これについて、まず一般論を話したいと思います。

 

居飛車は覚えることが多い」

振り飛車は覚えることが居飛車と比べて少ない」

これは振り飛車を初心者に進める時の謳い文句にされていることが多いフレーズだと思います。こう言われる理由を話していきます。

何故居飛車は覚えることが多いのか?

それは、基本的な戦法の段階で覚える内容が多いからといえます。まず、相居飛車には大まかな括りで4つ戦法があります。

矢倉、角換わり、相掛かり、横歩取り

この4つのうち、後手から誘導する戦法は横歩取り、他3つは先手から誘導する戦法です。

この4つの歴史ある戦法は、雁木や角道を開けない力戦居飛車を指さない場合、全てを避けることは難しいです。

例えば、相居飛車において先手矢倉後手横歩と指すとしても、2つの定跡を勉強することが必要になります。相居飛車だけで、覚えることの幅が非常に広いです。また、相居飛車の戦法は序盤が細かくて難しいことが多く、一つ一つの定跡も難しいものが多いです。

それだけでなく、各種振り飛車対策が必要です。全てに効く特効薬は残念ながら有りませんから、これらの対策を用意する必要があります。

それに対して振り飛車は、居飛車側のいくつかの対策を覚えれば良いです。序盤は比較的簡単(囲いを覚える、銀の位置を覚えるなど)なので、単純に覚える量は少なくて済みます。

また、相振り飛車はそもそも定跡があまり整備されておらず、相居飛車と比べて暗記量が圧倒的に少ないというのがあります。

 

次に、

居飛車はソフトの評価値が良い・落ちない」

振り飛車はソフトの評価値が落ちる」

についての話です。そのままなので至極当然な事なのですが、こうなる理由について一つの説を紹介します。

居飛車は、▲7六歩▲2六歩で大駒が活用出来るのに対し、例えば四間飛車は▲7六歩▲6六歩▲6八飛と、手数をかけて大駒の働きを悪くしているという風に解釈できます。その間に居飛車の飛車先が伸びるので、それだけで居飛車の得とソフトが見ているという考察です。

ソフト的には振り飛車が不利というのは有名な話かも知れません。

 

 

では、これらを元に私の意見をお話します。アマチュア三段や四段の方が初心者が初段に上がる方法を語る時、振り飛車を勧めます。しかしながら、初段から上へ行くために居飛車党になるというケースは少なくありません。また、強くなるために最初から最先端の居飛車の定跡を覚えている人もいます。私の15分のネットサーフィンによれば、居飛車党過激派という人種もいるようです。sbook暗記で上を目指す方も見掛けましたし、振り飛車党の配信者が、振り飛車で高段を目指すのは難しいと言っているのを見た事もあります。

では、実際居飛車振り飛車でどう異なるのか。

私の意見としては、大きな差は無いと思います。

振り飛車の方が確かに序盤の知識はある程度少なくて済みます。ですが、振り飛車が厳しいと発言するアマチュアの大半は、序盤戦に工夫が足りてないだけだと思います。

なぜそう言えるのか?経験談として、中の人がそもそも振り飛車で高段者に何度も勝っているというのがあります。多くの高段者は居飛車として振り飛車咎める術はありません(そもそもトッププロでも振り飛車で活躍されている先生がいらっしゃいますし、アマに振り飛車咎める術なんてある訳ないですよね)。

振り飛車が辛いと言っている人の多くは、例えば組み合って作戦負けになる将棋に踏み込んでいることが見受けられます。端を突き返された堅い4枚穴熊に組まれて振り飛車は作戦負けになりやすいからダメというのは、振り飛車のメンツが立ちません。藤井猛先生や久保利明先生を始め、多くの振り飛車党の大棋士達が重ねてきた工夫を勉強してないだけだと思います。振り飛車の序盤は確かに最初こそ楽ですが、超急戦対策を覚えること、全ての急戦に互角くらいに捌き合えるような駒組をすることに加えて、持久戦で作戦負けにならないための工夫を考えていくと、居飛車党の覚えることと大差出ません。工夫した時に居飛車の方が評価値が良いから振り飛車は厳しいと思われるかもしれませんが、居飛車党は本当は難しい相居飛車に勉強時間を割きたいんです。振り飛車の細かい工夫をいちいち考える時間はありません。それに、数値が下がったからと言ってアマにとっては全然互角、寧ろ実戦的には振り飛車勝ちやすかったり、ということも多くあります。振り飛車というのは駒組が簡単な分、自分なりの工夫が出しやすいはずなんです(例えばゴキゲン中飛車対超速だって、ちゃんと研究すればゴキゲン中飛車不満ない展開を作ることも出来ます)。振り飛車の駒組は単純ながら細かい差を付けやすく、振り飛車で強くなるためにはそこを作っていく必要があると言うだけの話なのです。

一方の居飛車については、特段深く語ることはありません。何故かと言えば、序盤がかなり確立されていることにあります。相居飛車の序盤は、工夫するのが難しいです。なぜなら、多くの手は試されており、定跡の裏側で淘汰されて来た歴史があります。そこから鉱脈を見つけるのはかなり難しいです。工夫するのなら、廃れた定跡を研究して、ある程度殴れる形として使うくらいでしょうか。これが出来るなら私より強いと思いますが、簡単では無いでしょう。

すなわち、定跡形を使わざるを得ず、相居飛車の序盤の強さは暗記力に直結します。

振り飛車も、各種振り飛車に対策が必要で覚えることは多そうに見えますが、定跡自体は古くから指されてきたものが通用することも多く、言われるほどの暗記量はありません。勿論工夫の余地は大いにありますが、工夫しなくても十分殴れてしまいます。

雁木や角道開けない形の力戦相居飛車はどうなるの?と言われるかもしれません。しかし、良く考えて見てください。相振り飛車だって、言ってしまえば力戦振り飛車でしかないのでは無いですか。むしろ相振り飛車の方がレパートリーが豊富で、難しいまであります。

このように、振り飛車居飛車の難易度、強さの差というのはあまり大きくないように思います。強いて言えば、居飛車党に向いてる人は暗記の強い人で、振り飛車党に向いている人は工夫が好きな人、でしょうか。別に居飛車で工夫することも面白いですし、定跡に則った機械的振り飛車も悪くないと思います。居飛車振り飛車の差は、偏にその戦法の持つ特性でしかない、というのが私の意見です。上達速度という観点でお話されるアマ有段者や配信者を見たこともありますが、初段を目指すのも初段を超えて高段を目指すのも、最終的には戦法の理解を高め、定跡を学んで工夫していくだけに過ぎないと思いますし、速度の差なんて本来は微々たるものだと思います。振り飛車は強くなりやすい、居飛車は伸び代が大きく伸びが悪いと言われることがあるかもしれません(ネットサーフィン情報より)。ですが、こんなものは1アマチュアの意見でしかありません。人によって上達法は変わります。

 

初段を目指す人や、より高みを目指す人が戦型を選ぶ上で、人の意見やソフトの評価値に流されず、居飛車振り飛車の持つ性質を見極め、自分にどちらが向いているのかじっくり考えて戦型選択をするために、この記事が道標となれば幸いです。